横浜三溪園のほど近くに「桜山ホテルカフェ」ができたのは2年ほど前のことです。
「ホテルなの?カフェなの?」と外からは伺い知れないけれど、おしゃれで洗練された佇まいが印象的でした。
桜山ホテルカフェのInstagramで掲載されているメニューを眺めながら「いつ行こうか」と考えていましたが、よく晴れた冬の日、とうとう桜山ホテルカフェの門をくぐってみることにしました。
住宅地に溶け込む古民家カフェ
桜山ホテルカフェの辺りは住宅地。「本当にこんな場所にカフェがあるの?」と少し不安になるほどです。
市営バスの三の谷バス停から4分ほどですが、初めて行くときは地図を見ながらの方がいいかもしれません。
エントランスをくぐると、緑の木々に囲まれたお庭があります。ここは春になるとたくさんの花々が咲き誇るそうです。


テラス席では、ワンちゃんと一緒にお茶やお食事を楽しむこともできます。
少し迷うのがカフェの入り口。建物に沿って進むと玄関があるので、そちらで靴を脱いで店内に入ります。
桜山ホテルカフェの名前の由来

明治時代の山手の丘(現在のフェリス女学院の辺り)には星のかたちの屋根をつけた小さな木造の宿があったそうです。
その宿の名は「チェリーマウンテンホテル」。
経営者が現オーナーの曽祖母である「マサさん」という女性でした。
当時、⼭⼿・本牧地域は、景観の美しさから多くの外国人居留地や日本人要人の別荘が立ち並んでいました。
ホテルの⽬の前には桜が咲き広がり、世界中のお客様から愛された場所。
そんな美しい宿を大正12(1932)年、関東⼤震災が襲います。
チェリーマウンテンホテルは消失してしまい、マサさんは現在のカフェがある家に移り住んだそうです。
マサさんが移り住んだ新しい家の近くにある三渓園も、桜の名所として今でも親しまれています。チェリーマウンテンホテルと桜山カフェは「桜」の記憶でつながっているかのようです。
桜山ホテルカフェの名前には「多くの人に愛されたチェリーマウンテンホテルからバトンをつなぎ、再びたくさんの人に喜んでもらえる場所にしたい」という思いが込められているそうです。
「ホテル」という呼び名はここから来ているのですね。
桜山ホテルカフェのオープンは、マサさんの経営していたチェリーマウンテンホテルが関東⼤震災で消失した年からちょうど100年後の2023年でした。
異世界に迷い込んだような空間を作るインテリア

店内に入ると、桜や果実が大きく描かれた壁や随所にディスプレイされたドライフラワーが目に飛び込んできます。
桜山ホテルカフェは築70年の昭和古⺠家を活かした建物です。
柱や押し入れなどに古民家らしさはあるのですが、大胆なボタニカルモチーフや調度品はモダン。ちょっと異世界に入り込んだような、時代と空間を小旅行している気分になります。

食器棚や三面鏡は、オーナーの曽祖母や祖母が使っていたアンティーク。チェリーマウンテンホテルのマサさんも毎日鏡を見ていたかもしれません。
そこに広島の檜を使った床や⿊を基調としたテーブルにドライフラワーなど、ノスタルジックなものと新しいものと融合させています。
またドライフラワーは季節によって、色や雰囲気を変化させています。
今回は冬の寒さを和らげるような温かみのある色合いでしたが、夏は白やブルー、グリーンなどのさわやかなカラーコーディネートに変化するそうです。

インテリアにこだわった空間作りができるのは、デザインの専門家チームが桜山ホテルカフェをプロデュースしているからだそうです。
桜山ホテルカフェは「自分たちの作り上げた空間で、思い思いのときを過ごすお客様の顔をダイレクトに見られる大切な場」だと言います。
目と心を楽しませるメニューの数々

桜山ホテルカフェのメニューは季節メニュー、定番メニュー、予約が必要なメニューの大きく3つに分かれます。
使用されている食器の多くは益子焼。桜山ホテルカフェのために作られたお皿もあります。
お料理とともにお皿やグラス、カップなども堪能できます。

季節メニューは旬のフルーツを使ったスイーツやガレット、ドリンクなどがラインナップ。
伺ったのは冬のホットメニューの時期で、ビーフシチューやいちごパフェ、ジンジャードリンク、ホットチョコレートやチャイなど、身体が温まるようなメニューが盛りだくさん。
これだけでも迷ってしまうくらいです。
春は桜、夏はかき氷、秋は実りの恵みを活かしたメニューなどが登場するので、いつ行っても新しい味と出会えます。

定番メニューはガレットやケーキ、シュークリームのほかに、和カフェらしく、農家さん直送の抹茶や、無添加あんこをつかった和スイーツもあります。
特にあんみつは、この空間で食べられたら、レトロな気分に浸れそうです。
お食事はカジュアルイタリアン。メニューに使われるお野菜はできる限り有機野菜を直接農家さんからいただいて、生ハムの国産豚を原木で仕入れるなどこだわり抜いた食材を使っています。ただし、素材に頼りすぎることなく、ひと手間をかけ「安心できちんとおいしい」を実践しています。

予約メニューは来店日の2日前までの予約が必要です。
コース仕立ての籠ランチやよそゆき気分を気軽に味わえる籠ランチ、アフタヌーンティーなど、桜山ホテルカフェを存分に楽しめるスペシャルなメニューです。
今日のティータイム
桜山ホテルカフェに伺ったのは午後3時頃。ちょうどティータイムです。
お店にはおしゃべりを楽しむ女性たち、テラス席にワンちゃんを連れたご夫婦と、ふらっと立ち寄った雰囲気の男性がいらっしゃいました。
Instagramを見ながら「これを食べたい!」とずっと思っていたメニューを注文しました。
定番メニューから「塩バターキャラメルガレット」、季節メニューから「自家製ホットジンジャー」と、お店からおすすめいただいた「エルダーフラワーソーダ」「ベリー麹スムージー」。
いただくのが、とても楽しみです。

塩キャラメルガレットは、一般的なガレットより生地の色が黒くて驚きました。
無農薬栽培の農家さんが丹精込めて手作りする無農薬蕎麦粉を、お店で粉砕しています。
そこに少しのきび砂糖を入れて作るそうで、蕎麦粉そのものの色が生地にダイレクトに出ます。
シンプルなだけに蕎麦粉のセレクトが重要だそう。試食を重ねて、やっとこの蕎麦粉にたどり着いたとのこと。蕎麦の実の状態で届き、お店のキッチンで丁寧に挽いて蕎麦粉にしていると言います。
食感はさくっとしていて、歯ごたえがしっかりあります。バターやキャラメルと一緒に食べると芳醇な香りや味の変化が楽しめますが、まずは生地だけを楽しんでみてください。
奥行きのある生地そのものの力強さが実感できます。

自家製ホットジンジャーは、無農薬農家さんが作るショウガをクローブ、アニス、ブラックペッパー、唐辛子などのスパイスで煮込んだ⾃家製シロップを使っています。
シナモンスティックでかき混ぜながら飲むとほんのり甘く、ぴりりとした刺激もあって身体がぽかぽか温まってきます。

エルダーフラワーソーダはそのフォトジェニックな見た目に、まず「わー」と声を上げてしまいます。
グラスを横から見ると、ブルーのグラデーションとレモンで涼しげです。時間の経過とともに、カシスアイスが溶けて全体がピンクに変化していきます。

上から見るとまさにお花畑。きれいなだけでなく、食べることもできます。お花はあまり味を感じませんが、しゃくしゃくした食感が面白いです。
ストローで飲んでみると、まず底にあるバタフライピーゼリーがのどにするんと滑り落ちます。ソーダはエルダーフラワーのマスカットのようなさわやかでクセのない味。エルダーフラワーは風邪やインフルエンザにも効果のあるハーブなので、暑い時期だけでなく冬に飲むのもおすすめです。

最後にベリー麹スムージー。これは瀬谷区にある麹屋さんから、おいしい米麹をいただいたことで生まれたドリンクだそうです。
麹と豆乳にブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリーをミックスします。
甘酒のような味わいですが、甘すぎないのでとても飲みやすい味。
ちょっと体調が気になるときに飲むと、元気になりそうです。
カフェは「何にでもなれる場所」

桜山ホテルカフェはギャラリーやワークショップの場所としての側面も持ちます。
デザインチームの厳しい目で選び抜かれたアーティストの作品の展⽰販売を定期的に⾏っています。過去には、海洋プラを宝⽯のように⽣まれ変わらせるジュエリーブランドのアクセサリーや、天才少年が描くアートなどジャンルを超えて「桜山ホテルカフェで紹介したいもの」を展示してきたそうです。
玄関を入った右側には、アーティストたちの作品やカフェで使用している食器、焼き菓子などが陳列されていて、気に入ったものがあれば買うこともできます。

さらに、桜⼭ホテルカフェでは「⾷育プロジェクト」のワークショップを不定期で開催しています。
講師には管理栄養⼠の先⽣をお呼びし、これまでに監修したランチを⾷べながらの勉強会。
食育と言っても難しい話ではなく、身近で生活に役立つ知識を共有します。スーパーでおいしい野菜の見分け方などを勉強した参加者は「帰りにスーパーに行かなくちゃ!」と楽しそうに帰られるそうです。
カフェは空間なので、そこにアイデアがあれば何でもできる可能性を秘めています。
桜山ホテルカフェのいちばんの強みは「デザインチームが母体なので、何かを生み出すことが得意な人が集まっています。インテリアやメニュー、イベントなどアイデアを形にすることにスピード感がある。それが桜山ホテルカフェの強みです」とカフェのスタッフの方が話してくれました。
訪れた人に、思い思いの時間を過ごしてほしい

桜山ホテルカフェはもしかしたら少し敷居が高いのでは、と思う方もいるかもしれません。
玄関の扉を開けるのを躊躇してしまう、という気持ちも分かります。
でも一度足を踏み入れ、椅子に座ると、初めてでもしっくりと落ち着いていられることに驚きます。
ぼんやりと壁やディスプレイを眺めているのもいいし、じっくり本を読むのもいい。
大切なお友達とのおしゃべりも、まるで家にいるかのようにくつろげます。
きちんとした席やちょっとしたおもてなしにも使いやすいですが、ふらっと訪れて大きな窓から入る陽の光の変化を楽しむのもとても贅沢な時間の使い方。
桜山ホテルカフェはそのときに自分が求める姿となって受け入れてくれる、そんな空間です。
桜山ホテルカフェ
住所:神奈川県横浜市中区本牧三之谷32-2
アクセス:JR根岸線「根岸駅」「関内駅」「石川町駅」から横浜市営バス「三の谷」下車後徒歩約4分
TEL:045-225-9022
営業時間:11:00-18:00(LO 17:30)
定休日:月曜日・火曜日
駐車場:なし